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  •  中山 胡民 (なかやま こみん) ? 〜1870

    諫鼓鶏蒔絵印籠 
    (かんこどりまきえいんろう)

     中山胡民作 

     製作年代 : 江戸時代末期
    嘉永〜安政頃(1850〜60)

     法量 :
    縦98mm×横58mm×厚22mm

     鑑賞 :
    中山胡民による豪華な鹿子梨子地、高蒔絵の印籠です。 泰平の世の象徴とされる、太鼓に乗った鶏を高蒔絵で表しています。 在銘で、共箱も附属した資料性も高い作品です。
     「日本のゴルフ創世期の恩人」とされる日本在住のイギリス人、ウィリアム・ジョン・ロビンソン(1852〜1931)の旧蔵品です。
     緒締には京金工の大月光興作の秋草高彫金無垢の緒締とウニコール(一角)製の「獅子牡丹彫柳左根付」が 旧蔵当時の100年前から附属しています。

     意匠 :
    太鼓の上の鶏を描いた「諫鼓鶏図」は、古代中国の名君・禹王が宮廷の門外に鼓を設置し、 王に諫言したい民がいれば鳴らさせたとの故事に基づいています。 打たれることがないほど太鼓に蔦が這い、その太鼓の上の鶏が鳴く様子で、 善政が敷かれていることを示し、天下泰平を表す吉祥の意匠です。

     形状 :
    常形5段、紐通付きの大ぶりな印籠です。

     技法 :
    ・金梨子地に金平目粉を蒔いた鹿子梨子地で、金粉と青金粉の高蒔絵で諫鼓鶏を表しています。 鶏の鶏冠は朱石目、腹には赤銅粉も使用しています。
    ・太鼓胴の木目は研出蒔絵で表しています。
    ・段内部は金梨子地です。

     作銘 :
    裏面左下に、小さな字で「胡民作」と蒔絵銘があります。胡民の印籠としては、珍しい場所に入れています。

     附属品 :
    根付と緒締、外箱、紫縮緬の包裂が附属しています。
     根付はウニコール(一角)製の「獅子牡丹彫柳左根付」で、 表は雲中の獅子と牡丹、裏は波に片輪車を透かし彫にしています。
     緒締は京金工の名手・大月光興(1766〜1834)が石目地に秋草を高彫にした金無垢の緒締です。
     これらは100年前から附属していました。おそらく幕末からずっとこの取り合わせだったのでしょう。

     外箱 :
    桐柾の印籠蓋造の印籠箱が附属しています。蓋甲に「諫鼓圖 蒔繪」と胡民自筆の題字があり、 右上には「梨子地諫鼓」との貼札があります。
     蓋見返しに左下に「法橋胡民作」の墨書と「互山」の白文瓢箪形朱印があります。 この印は中山胡民作「寿老人蒔絵印籠」の外箱にも見られます。

     伝来 :
    大正13年(1924)10月21日に大阪美術倶楽部で行われた 「ダブルユー・ジェー・ロビンソン氏所蔵品入札」の売立目録に、 三七九「胡民作諫皷蒔繪印籠」として出品されています。
     それ以前の伝来は不明ですが、勧戒的な意匠で、贅を尽くした緒締と根付が附属しているところを見ると、 いずれかの富裕な大名の所用品であったように思えます。

      ウィリアム・ジョン・ロビンソン :
    ウィリアム・ジョン・ロビンソン (Wiliam John Robinson 1852〜1931)はオーストラリア・シドニー生まれのイギリス人で、 英国系の貿易商社ジョン・スワイヤーの神戸支店長を勤めていました。
     ロビンソンは日本でゴルフを始め、1903年の神戸ゴルフ倶楽部創設時に、 アーサー・グルームらとともに、創設会員名簿に名を連ね、 その後、自らの資金で横屋ゴルフアソシエーション、鳴尾ゴルフアソシエーションを創業し、 「日本のゴルフ創世期の恩人」とされています。
     売立目録の序文によれば、半生をかけて膨大な東洋美術を収集したものの、 近親者にコレクションを継承する者がいなかったため、断腸の思いで売却したとあります。 大正13年から15年にかけて大阪美術倶楽部や神港倶楽部において、 4回の入札会で様々なコレクションを売却しています。
     本品は国内に伝来し、2024年に100年ぶりにそのままの状態で出現し、今回初公開です。

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    蓬莱山鶴亀蒔絵印籠(ほうらいさんつるかめまきえいんろう)

     中山胡民作 

     製作年代 :
     江戸時代末期
    嘉永〜安政頃(1850〜60)

     法量 :
    縦75mm×横48mm×厚17mm

     鑑賞 :
    中山胡民による豪華な金地高蒔絵の印籠です。琳派風の蓬莱山に鶴亀が、緻密な研出蒔絵、高蒔絵で表されています。
     緒締には珊瑚珠、根付は象牙梅彫鏡蓋根付が取り合わされています。

     意匠 :
    表裏に蓬莱山を配し、表には舞い降りる鶴、裏には海中から岩に登る亀を描いています。 蓬莱山は中国の神仙思想上の仙境ですが、この印籠では琳派風の和様の松が描かれ、 『光琳百図』にも採録される「松島図屏風」に着想したと考えられます。 元は俵屋宗達筆「松島図屏風」(フリーア美術館蔵)がオリジナルであり、 河野元昭氏は宗達が能[高砂]から着想を得て描いたと唱えられています。 本作でも鶴・亀が描かれて高砂の留守模様と考えられ、 松島図=能[高砂]という考え方は、幕末まで琳派に受け継がれていたのではないかと考えられます。 

     形状 :
    常形4段、紐通付きのやや小ぶりな印籠です。

     技法 :
    ・金粉溜地に焼金や青金の平目粉を研出蒔絵として雲や霞を表しているところがみどころです。 蓬莱山と波、鶴と亀は高蒔絵で表現しています。蓬莱山の岩には平目粉だけでなく、青貝微塵粉もわずかに蒔かれています。
    ・段内部は金平目地です。

     作銘 :
    底部左下に、大ぶりな字で「法橋胡民(花押)」と蒔絵銘があります。

     伝来 :
    大正6年(1917)11月12日に東京美術倶楽部で行われた 「舊御大名家某大家御所蔵品故富岡男爵故前田香雪君御遺愛品入札」に、 一六〇「胡民作粉溜鶴亀蒔繪印籠」として出品されているのが初出です。 この売立は二本松藩主丹羽家や好古家として知られる前田香雪等の 所蔵品をまとめた売立ですが、印籠類の旧蔵者は不明です。
     その後、1989年に天満屋広島店で開催された「第二回金蒔絵工芸逸品選」に出品されていた 印籠15本入の印籠箪笥の中にこの印籠が含まれています。
     それから27年間、一度も世に出ることはありませんでしたが、 2016年11月10日にBONAHMS社が、広島のコレクター、故杉原昭三氏(1928〜2014) 所蔵の美術品を 「杉原昭三氏コレクション」としてロンドンでオークションにかけ、 上記の印籠箪笥と内容品もバラ売りにして Lot147として出品されています。この印籠は2017年に再び国内に戻りました。


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    2006年 5月 1日UP
    2025年 2月 2日展示替