吉村 寸斎 (よしむら すんさい) 生没年未詳
春野雲雀蒔絵硯箱 (はるのにひばりまきえすずりばこ)
吉村寸斎作
製作年代 :
江戸時代後期 文政頃(circa1820)
法量 :
縦274mm×横137mm×高43mm
鑑賞 :
尾張徳川家の御用蒔絵師・吉村寸斎の硯箱です。春野に雲雀を描いたもので、見返しには寸斎独特の若松が
表されています。 在銘・共箱で、拝領年紀もあって資料性が高く、吉村寸斎の基準作品です。
意匠 :
蓋の下方には蒲公英や菫を描き、上方には霞に3羽の雲雀を描いて春野の景としています。
見返しには霞と寸斎特有の表現で若松を表し、見込みには蓋甲と同じ蒲公英が表されています。
形状 :
長方形、角丸の見込みの深い被蓋造で、硯箱としてはあまり例を見ない特殊な構造です。蓋甲を少し盛っています。
見込みには下水板を敷き、銀製の水滴と硯板が嵌め込まれています。
技法 :
・黒蝋色塗地に、上の方には研出蒔絵で霞に雲雀が表され、下の方には蒲公英と菫が焼金粉と青金粉の高蒔絵で表されています。
・見返には黒蝋色塗地に蓋甲と同じ調子で霞を研出蒔絵で表され、若松が高蒔絵で表されています。
若松の蒔絵は粘稠性の高い絵漆を使った付描きで、寸斎独特の表現方法です。
他の多くの寸斎作品にも同様な若松の表現を見ることができます。
・見込みには下水板を敷き、黒蝋色塗地に蒲公英が高蒔絵で表され、銀製丸形の大きな水滴と硯石が収められています。
作銘 :
底部中央に小さな字で「張州寸斎制(花押)」の蒔絵銘があります。
製造の意味で「制」の字を使用しているようです。
共箱 :
桐製被蓋造の共箱が附属しています。
蓋表に「蒔絵春野ニ雲雀/御硯箱 一」の墨書され、
見返には「張州御蒔絵師/寸斎(易印)」と寸斎の自署があります。
底には後に旧蔵者によって「拝領御硯箱□華方/ゆすり彦兵衛/文政十亥弥生吉日/清廉」と書き付けられています。
他に尾張藩14代・17代藩主であった徳川慶勝(1824〜1883)からの拝領の由緒を持つ吉村寸斎作「鶴蒔絵硯箱」の存在も知られることから、
尾張藩10代藩主・徳川斉朝(1793〜1850)から文政10年(1827)に拝領した品と考えられます。
展観履歴 :
2020 国立能楽堂資料展示室 「日本人と自然 能楽と日本美術」
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蓑亀蒔絵印籠 (みのがめまきえいんろう)
吉村寸斎作
製作年代 :
江戸時代後期 文政頃(circa1820)
法量 :
縦61mm×横38mm×高14mm
鑑賞 :
尾張徳川家の御用蒔絵師・吉村寸斎の小さな印籠です。波に蓑亀を研出蒔絵に高蒔絵で表しています。
トンボ玉緒締に松鶴彫鏡蓋根付が取り合わされています。
意匠 :
墨絵を思わせる行体の波に、真体の亀を描いています。
形状 :
常形3段で紐通の付いた、かなり小ぶりな印籠です。
技法 :
・黒蝋色塗池に、研出蒔絵で波を表し、高蒔絵で緻密に蓑亀を表しています。
・段内部は金梨子地で、釦は金地です。
作銘 :
底部中央に小さな字で「張州寸斎(花押)」の蒔絵銘があります。
伝来 :
国内に伝来し、2011年に出現しました。
展観履歴 :
2019 東京富士美術館 「サムライ・ダンディズム」展
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