中山 胡民 (なかやま こみん) ? 〜1870
立鶴蒔絵香合 (たちづるまきえこうごう)
中山胡民作 芳村観勢好
製作年代 : 江戸時代末期
嘉永3年(1850)か
法量 :
径78mm×高18mm
鑑賞 :
表は黒漆の真塗りで、何一つ模様はなく地味な作品です。
その分、蓋を開けて返した時に現れる真鶴(まなづる)
の立ち姿に驚かされます。
工芸における琳派の後継者らしい作品です。
町人茶人・芳村観阿(1765〜1848)の後妻・観勢(1781〜1854)の好み物です。
意匠 :
琳派風の立鶴です。下絵銘はありませんが酒井抱一か、その一門によるものでしょう。
酒井抱一筆の群鶴図屏風(ウースター美術館)を思わせる画風です。
芳村観勢の俗名、田鶴にちなんだ意匠とも考えらえます。
製作背景 :
同じ作品が数点現存しています。町人茶人・芳村観阿の後妻・観勢の好み物で、
嘉永3年(1850)の古稀の七十賀に際して百個作らせたようです。
ただし本作は注文者の手元に残されたもの、あるいは後から追加したものと考えられます。
形状 :
一文字丸香合といわれる、天板と底板が直線で平行になっている丸形の香合です。
印籠蓋造りで薄い錫縁を廻らしています。
技法 :
・ 外は真塗りという油を含んだ漆を塗り立てて仕上げています。天板と底板は木目が透けており、
布着せをしていません。側面は布着せをしており、合口は錫縁になっています。
・ 蓋裏のみが黒蝋色塗りに研出蒔絵です。立鶴も銘も全て研出となっています。
鶴全体は焼金粉、背に青金粉を蒔き暈かし、尾羽には銀粉、腹には炭粉を蒔いています。
作銘 :
「法橋胡民造」の蒔絵銘と、「泉々」の朱漆書長方形印があり、いずれも研出銘になっています。
外箱 :
革緒の付いた四方桟蓋の樅箱が付属しています。蓋表には「立鶴 香合」と墨書があります。
箱の底左下には、指物師の黒印があり、「如件」との瓢箪形印となっています。
蓋見返しに「観勢/百之内」という箱書があるものは配り物であったと考えられますが、
この作品にはありません。
伝来 :
伝来は不明です。配り物であるため、かなりの数が現存していると考えられます。
同様な作品をこれまでに6点確認しています。
大正8年5月26日「旧華族家(子爵笠間藩主牧野家)御蔵品展観入札」にも、同様な作品が出品されています
(「観阿箱」となっていますが、「観勢箱」の誤りのようです)。一橋徳川家の売立目録にも見られます。
またスイスのバウアー・コレクションにも同じものがありますが、
これは外が余りに地味であったために、
名工の鵜沢松月が大正期に蓋甲に蒔絵を施しています。
芳村観勢 :
浜松藩士・瀧原氏の娘で、名が田鶴。芳村観阿の後妻となり、観阿の茶事や鑑定を内側から支えていた
と考えられています。観阿は八十賀の際に、原羊遊斎に一閑張桃蒔絵棗を125個作らせて、配物としました。
また原羊遊斎作・酒井抱一下絵「松竹梅蒔絵三組盃」(個人蔵)の箱書に「白酔庵観勢所持」とあり、
観阿の所持品に観勢が箱書きしたと考えられます。
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蓬莱山鶴亀蒔絵印籠
(ほうらいさんつるかめまきえいんろう)
中山胡民作
製作年代 :
江戸時代末期
嘉永〜安政頃(1850〜60)
法量 :
縦75mm×横48mm×厚17mm
鑑賞 :
中山胡民による豪華な金地高蒔絵の印籠です。琳派風の蓬莱山に鶴亀が、緻密な研出蒔絵、高蒔絵で表されています。
緒締には珊瑚珠、根付は象牙梅彫鏡蓋根付が取り合わされています。
意匠 :
表裏に蓬莱山を配し、表には舞い降りる鶴、裏には海中から岩に登る亀を描いています。
蓬莱山は中国の神仙思想上の仙境ですが、この印籠では琳派風の和様の松が描かれ、
『光琳百図』にも採録される「松島図屏風」に着想したと考えられます。
元は俵屋宗達筆「松島図屏風」(フリーア美術館蔵)がオリジナルであり、
河野元昭氏は宗達が能[高砂]から着想を得て描いたと唱えられています。
本作でも鶴・亀が描かれて高砂の留守模様と考えられ、
松島図=能[高砂]という考え方は、幕末まで琳派に受け継がれていたのではないかと考えられます。
形状 :
常形4段、紐通付きのやや小ぶりな印籠です。
技法 :
・金粉溜地に焼金や青金の平目粉を研出蒔絵として雲や霞を表しているところがみどころです。
蓬莱山と波、鶴と亀は高蒔絵で表現しています。蓬莱山の岩には平目粉だけでなく、青貝微塵粉もわずかに蒔かれています。
・段内部は金平目地です。
作銘 :
底部左下に、大ぶりな字で「法橋胡民(花押)」と蒔絵銘があります。
伝来 :
大正6年(1917)11月12日に東京美術倶楽部で行われた
「舊御大名家某大家御所蔵品故富岡男爵故前田香雪君御遺愛品入札」に、
一六〇「胡民作粉溜鶴亀蒔繪印籠」として出品されているのが初出です。
この売立は二本松藩主丹羽家や好古家として知られる前田香雪等の
所蔵品をまとめた売立ですが、印籠類の旧蔵者は不明です。
その後、1989年に天満屋広島店で開催された「第二回金蒔絵工芸逸品選」に出品されていた
印籠15本入の印籠箪笥の中にこの印籠が含まれています。
それから27年間、一度も世に出ることはありませんでしたが、
2016年11月10日にBONAHMS社が、広島のコレクター、故杉原昭三氏(1928〜2014)
所蔵の美術品を
「杉原昭三氏コレクション」としてロンドンでオークションにかけ、
上記の印籠箪笥と内容品もバラ売りにして
Lot147として出品されています。この印籠は2017年に再び国内に戻りました。
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2006年 5月 1日UP |
2024年12月31日展示替 |