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  •  白井 可交斎 (しらい かこうさい) 生没年未詳

    全体表写真

    富士越龍蒔絵印籠
    (ふじごえりゅうまきえいんろう)

     白井可交斎作

     製作年代 : 江戸時代後期
    天保〜嘉永頃(circ.1850)

     法量 :
    縦85mm ×横53mm×厚21mm

     鑑賞 :
    将軍家の印籠蒔絵師、白井可交斎による研出蒔絵で富士越龍を表した印籠です。 緒締は金銅製の瑞雲瑞鶴の金工、根付は同じく可交斎の薮柑子蒔絵饅頭根付で正月らしい取り合わせとしています。

     意匠 :
    狩野風の「富士越龍」図の意匠です。 波間から富士を越えようとする龍を表裏に振りわけています。 富士と波は墨絵のような「行」体で、龍は緻密な「真」体で表現しています。 白井可交斎による同意匠の印籠はリスボン・グルベキアン美術館蔵のものなど3点が知られています。

     形状 :
    常形四段の印籠で、 天地は甲を盛って小判形に近くしています。 また紐通しの側面に面を取った、特殊な形状です。

     技法 :
    焼金粉溜地に総研出蒔絵としています。
     波や雲は研切蒔絵で墨絵のようにしています。 また富士は銀の研切蒔絵なっています。
     段の内部は金平目地で、平目粉を置き平目にしています。

     作銘 :
    通常、「可交斎」銘か 「枩山」銘ですが、 この印籠では底の右下に「可交斎」の蒔絵銘に、 朱漆で「枩山」の壺形印を添えています。

     伝来 :
    印籠銘写真 印籠内部写真 スイス人の印籠コレクター、モーリス&マルタ・シャンプー夫妻の旧蔵品です。 印籠コレクション総数555点の内の1点です。

     展観履歴 :
    2019 東京富士美術館「サムライ・ダンディズム」展


     薮柑子蒔絵根付 :

     白井可交斎作 根付写真 根付写真

     製作年代 : 江戸時代後期
    天保〜嘉永頃(circ.1850)

     法量 :
    直径39mm×厚21mm

     形状 :
    饅頭形の根付です。

     技法 :
    挽物の饅頭根付で、四分一粉溜地に高蒔絵です。 葉は焼金に青金を交えてグラデーションを付けています。 薮柑子の赤い実は、珊瑚の象嵌です。 そして合口は損傷しやすいため、錫縁が廻されています。

     作銘 :
    裏に「白枩山」の蒔絵銘があります。これは白井枩山を略したもので、可交斎の作銘にしばしば見られるものです。 福井藩主松平家に伝来した印籠もそうです。

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    瀟湘八景蒔絵印籠

    瀟湘八景蒔絵印籠
    (しょうしょうはっけいまきえいんろう)

     白井可交斎作

     製作年代 : 江戸時代後期
    天保〜嘉永頃(circ.1850)

     法量 :
    縦96mm ×横48mm×厚30mm

     鑑賞 :
    将軍家の印籠蒔絵師、白井可交斎による緻密な金粉溜地高蒔絵の印籠です。
     中国の景勝地として知られる洞庭湖付近の8つの名所「瀟湘八景」を画題にしています。 江戸形の印籠に、漢画風の高蒔絵としており、フォーマルな大名道具らしい豪奢で堂々とした作品です。
     緒締は珊瑚珠、根付は黒檀製楼閣根付が取合わされています。

     意匠 :
    狩野風の「瀟湘八景図」を意匠としています。 瀟湘八景とは、中国湖南省の名所で、
     平沙落雁(へいさ らくがん)
     煙寺晩鐘(えんじ ばんしょう)
     江天暮雪(こうてん ぼせつ)
     漁村夕照(ぎょそん せきしょう)
     洞庭秋月(どうてい しゅうげつ)
     瀟湘夜雨(しょうしょう やう)
     遠浦帰帆(おんぽ きはん)
     山市晴嵐(さんし せいらん)
    の八景です。表裏に4景ずつ描かれています。

    ・平沙落雁では5羽の雁が舞い降りています。
    ・烟寺晩鐘では、山の間に堂塔が描かれています。
    ・江天暮雪では雪山が描かれています。
    ・漁村夕照では5軒の家と干網、2艘の釣舟で漁村を表しています。
    ・洞庭秋月は洞庭湖の上に冴える秋月ですが、なぜか月がありません。 あるいは緒締か根付を月に見立てていたのかもしれません。
    ・瀟湘夜雨では瀟水と湘水の合流するあたりに降る夜の雨で、斜めの線で夜雨が表現されています。
    ・遠浦帰帆は湘江沿岸で舟が遠方より戻る景色で、帆掛船が2隻描かれています。
    ・山市晴嵐は、山里が山霞に煙って見える風景で、3軒の家が描かれています。
     瀟湘八景は中国宋時代から絵画に描かれ、日本でも写され、 近江八景など、日本の名所や、名所図の成立にも影響を与えました。
     無銘で同図の印籠も現存しています。

     形状 :
    大振りな江戸形5段の印籠で、紐通を設け、 天地は甲を高く盛り、さらに塵居を設けるなど、 格調高く堂々とした形状です。

     技法 :
    焼金粉溜地に高蒔絵として、細かい切金を規則正しく配置しています。 山や雲を立体的に高蒔絵して、凸凹したところを滑らかに研ぎ上げた高度な技術を見ることができます。 蒔絵粉は焼金粉に部分的に青金粉を使い、 江天暮雪に銀粉、銀切金を使って白い雪を表現していますが、現在は酸化して黒化しています。
     段の内部は鹿子梨子地です。金梨子地に平目粉を置き平目にした、豪奢なものです。

     作銘 :
    通常「可交斎」銘か「枩山」銘ですが、 この印籠では底の左下に「可交斎」の蒔絵銘に、 朱漆で「枩山」の壺形印を添えています。 さらに右側に画題を示すために、短冊状に金貝を貼り「瀟湘八景」と付描しています。

     伝来 :
    国内に伝来し、 印籠銘写真 2009年に初めて確認しました。 外国で流通した履歴はないようです。


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    2007年1月1日UP
    2010年8月7日UP