大村 玉山 (おおむら ぎょくざん)
生没年未詳
貝合蒔絵印籠 (かいあわせまきえいんろう)
大村玉山作
製作年代 : 江戸時代後期
文政頃(1830〜1844)
法量 :
縦90mm×横63mm×厚20mm
鑑賞 :
金粉溜地に、高蒔絵で貝合を表しています。
貝は3枚で、表には源氏物語の「花宴」、裏には「紅葉賀」を緻密に描いており、表・裏で春・秋ともしています。
珊瑚珠の緒締、桜紅葉蒔絵根付が取り合わされています。
意匠 :
古満派伝統の貝合の意匠です。貝合の印籠は、古満派正系の古満休伯・古満巨柳、そして大村玉山に多くの作例があります。
この印籠では源氏物語の「花宴」、裏には「紅葉賀」を緻密に描いています。
貝の意匠が細部まで全く同じ大村玉山の印籠がアメリカ・ウォルターズ美術館に所蔵されています。
そちらは朱溜地に高蒔絵の小印籠で、全く雰囲気が違う作品に仕上がっています
形状 :
常形、4段、隠し紐通しの印籠です。
技法 :
・金粉溜地に高蒔絵で表しています。表貝は高蒔絵で銀地に研切蒔絵にしています。
裏貝は高上げし、源氏雲を金貝の極付とし、付描で「花宴」と「紅葉賀」を緻密に表しています。
・段内部は金梨子地です。
作銘 :
底の右下に「関暁斎/橘玉山畫」の蒔絵銘があります。関暁斎銘は現存唯一で、別号と考えられます。
伝来 :
国内に伝来し、1998年に出現して行方不明となり。2016年に再出現しました。
展観履歴 :
2019 東京富士美術館「サムライ・ダンディズム」展
↑先頭に戻る
作者について知る⇒
王母桃蒔絵硯箱 (おうぼのももまきえすずりばこ)
大村玉山作
製作年代 : 江戸時代後期
文政頃(1830〜1844)
法量 :
縦241mm×横221mm×高46mm
鑑賞 :
西王母の瑞桃をモチーフとして、高蒔絵で表現した硯箱です。
大村玉山による現在確認される唯一の文房具の作品で、この工人の最高傑作といえます。
技術的にも他に例を見ない作行きで、鍍金七宝の水滴も見事です。
意匠 :
大村玉山から小田玉得斎に譲られた下絵集(フランス・個人蔵)には、
これとよく似た下絵があり、「橘玉山(花押)」と署名もあります。
その下絵には中国風の立派な唐団扇の上に桃を配しています。
また同じデザインの饅頭形根付(掛川市二の丸美術館蔵)も現存しています。
その下絵のデザインから唐団扇を取り去ると、この硯箱の意匠になります。
西王母の留守模様で、三千年に1度咲くという瑞桃で、
桃には花と実があります。
この硯箱では団扇すら描かず、奥ゆかしい留守模様といえるでしょう。
見返し・見込みには一切絵柄はありません。
形状 :
被蓋造り、角面取りの硯箱です。見込み中央には大きめの硯と七宝の水滴を置き、両側には掛子が入ります。
この箱の内部はもともと金梨子地であったらしく、それをわざわざ黒塗りしたようです。
掛子の角に、透けて金梨子地が見えているところがあります。
恐らく蓋甲の著しい高蒔絵にあたって、将来、下地と高蒔絵の間に割れや剥離が起きることを恐れたのでしょう。
江戸中期頃に作られて、その後実際に狂いが生じなかった、
枯れた古物の金梨子地の硯箱をわざわざ塗り潰して使ったと考えられます。そのため、
この時代の硯箱としては、硯石が大きいのでしょう。
技法 :
・ 地塗りは、黒蝋色塗にして、肉取りが非常に優れた高蒔絵をしています。高蒔絵には金・青金粉、枝の切り口にのみ銀粉を使用しています。
・ 桃の実は3mmも高上げしています。表面はさまざまな色の乾漆粉を蒔き、さらに朱金にするなど、
独特な表現をしています。
・ 葉の表は高蒔絵で描割りにしています。葉裏は洗い出しにして、葉脈の両脇を描割りにして残しています。
この表現方法は後に
同門の寛哉やその門下
是真一門が盛んに用いています。
おそらくこの作品が一番古い時期に当たるでしょう。
・ 花と蕾は金貝の極付けになっており、見事な付描がなされています。
・ 水滴は金銅製で、台座は二重の菊座に赤・青・白・黄色などの七宝になっています。見込み・見返しが無地なだけに、この水滴は目を引きます。
作銘 :
大村玉山は作銘に非常に凝り、
作品ごとに書体や字配りなどよく考えて
銘書しています。この硯箱では特に凝っているようで「自得斎橘玉山作」と篆書体の蒔絵銘と
「大村」の壺形印があります。壺形印は他に「孔雀蒔絵印籠」(ハンブルク工芸博物館蔵)と「竹雀蒔絵印籠」
「瀧龍蒔絵印籠」・「高砂蒔絵三組盃」にのみ見られ、合計5点しか確認されていません。
伝来 :
国内に長らく所蔵されていました。
外箱は頑丈な桐の被蓋造の箱で、ネズミにかじられた痕がありますが、箱の桐材が厚かったために助かっています。
「大邑玉山蒔畫/硯筥」と、江戸時代の所蔵者が蓋甲に書きつけています。
展観履歴 :
2009 国立能楽堂資料展示室「能の意匠」展
↑先頭に戻る
作者について知る⇒
2007年12月 3日UP 2023年 2月19日更新
|
|