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  • 特別展示室では時代・製作地にこだわらず、期間限定で不定期に 名品を展示します。


    菊蒔絵香盒 
    (きくまきえこうごう)

     寸法 :
    直径85mm×高40mm

     製作年代 :
    江戸時代中期
    享保から宝暦頃
    1720〜1770頃

     鑑賞 :
    木胎曲物、印籠蓋造の香盒です。黒蝋色塗地に平蒔絵で八重菊が描かれています。 底にまで蒔絵が連続して施された珍しい作品です。
     無銘で作者不詳ですが、作風から江戸中期の京蒔絵と考えられます。
     明治時代に道具商「大坂屋」林庄八が所蔵していたもので、 『漆器図録』巻9に模写図が掲載されています。今回、本ページにて初公開です。

     意匠 :
    上方に余白を取り、八重菊を意匠としています。 蓋甲では、表菊の上の方に、裏から見た菊や蕾を描いた独自の表現がみられます。 珍しいのは、側面から底まで、連続して図様が描かれていることです。 底には茎と葉のみが描かれています。
     また菊の花弁や葉脈は全て描割りで表されています。 室町時代の化粧道具の蒔絵手箱には菊意匠の作品が多く、 それらの古作の表現を意識しながら、独自に翻案した作品と考えられます。

     形状 :
    意匠が室町時代の蒔絵手箱にみられる菊の表現を意識しているとともに、 その形状も手箱の内容品にある薫物箱を模した形です。丸形で高さがあり、 印籠蓋造として高い立上りを付けています。置口には玉縁を設け、 蓋に甲盛があり、角に塵居を設けるなど、薫物箱を意識したまさに香盒です。

     技法 :
    檜の曲物の素地で、黒蝋色塗地に平蒔絵で表されています。 細部を全て描割で、付描を一切使わない珍しい作品です。
     内側は金梨子地で、置口の釦は金地にしています。

     外箱 :
     桐製印籠蓋造の外箱が附属し、蓋甲に「時代菊蒔繪/香合」の墨書があります。

     伝来 :
    国内に伝来し、2020年に愛媛県松山市から出現しました。 明治時代には、日本橋青物町で道具商として活躍していた大坂屋・林庄八が所蔵していたことが判明しており、 『漆器図録』巻9に「香盒 林庄八出品」として模写図が掲載されています。この図は明治33年(1900)に印刷されているので、 120年ぶりに登場したことになります。  

     林庄八 :
    日本漆工会の名簿によれば、林庄八は古物商とされています。 日本橋区青物町20番地「大坂屋」の主人です。 古名品を多く所蔵しただけでなく、その見識をもって嘱品家として、当時の名工に新作も作らせ、 内国勧業博覧会や、漆工競技会に出品していました。

     「漆器図録」 :
     「漆器図録」は柴田是真の長男・令哉が、日本漆工会の例会に出品された古漆器の名品を 毎回展開図に描き起こして『日本漆工会雑誌』の附録としてたものです。令哉没後に再編集されて 柴田令哉遺著『漆器図録』として13巻組で刊行されました。




     展観履歴 :
    2022 国立能楽堂資料展示室「秋の風 能楽と日本美術」

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    2021年11月14日UP
    2022年 8月25日更新