長谷川 光祗 (はせがわ こうし)1825〜1883
月秋草蒔絵印籠 (つきあきくさまきえいんろう)
長谷川光祗作
製作年代 : 江戸時代末期
弘化〜安政頃(circa1850)
法量 :
縦80mm×横63mm×厚19mm
鑑賞 :
古満派の印籠蒔絵師、長谷川光祗が壽得斎と号した20歳代の青年期に製作した印籠です。
黒蝋色塗地に銀平文の半月、黒蒔絵の秋草という、
日本人の感性に響く素晴らしい傑作です。
緒締は猩々瑪瑙、
根付は池田泰真作「柴舟蒔絵根付」が取合わされています。
金粉溜地高蒔絵で、素彫まである泰真の蒔絵根付の傑作です。
この印籠は、明治末期の印籠コレクターで、近代の名工、白山松哉(1853〜1923)の
パトロンでもあった今村繁三(1877〜1956)の旧蔵品で、
遅くとも大正期には、現在の取合せになっていたと考えられます。
意匠 :
半月に、萩、菊、女郎花といった秋草を伸びやかにあしらった意匠で、
秋の夜の風韻まで表されています。
月に女郎花が一本かかるところが心憎いデザインです。
長谷川光祗は佐竹永海に本格的に画も学んで、「永立」の号まで授けられた印籠蒔絵師であり、
その実力はこの印籠のデザインにも表れています。
形状 :
常形4段の印籠で、隠紐通として側面に面を取った形状です。
技法 :
黒蝋色塗地に銀平文の月を研出しています。黒蒔絵は、高蒔絵で盛上げながら、
最後を黒漆で仕上げています。緻密に描割や付描を使い分けて変化を付けています。
段内部は金梨子地です。
作銘 :
印籠の底、中央に蒔絵の師、石井有得斎から授けられた「壽得斎」の号と、画の師、佐竹永海から授けられた「永立」の号を黒文方形印とした蒔絵銘があります。
いずれも赤銅粉による蒔絵銘です。
柴舟蒔絵根付 :
柴田是真の高弟池田泰真による箱形根付です。総体を金粉溜地とし、
規則正しい青海波模様を蒔絵しています。
池田泰真は柴田是真が青海波塗を復興した際に助手を務めて貢献しましたが、
是真存命中は、師に遠慮して青海波塗を自身の作品には用いませんでした。
柴舟は高蒔絵になっています。所々に笹を素彫で表しています。
素彫は柴田是真が得意とした技法ですが、池田泰真が試みた珍しい作例といえるでしょう。
伝来 :
明治末の印籠コレクターで、白山松哉のパトロンでもあった今村繁三の旧蔵品です。
今村の印籠コレクション、6号箱に収められていたもので、
印籠24個入りのこの箱は、長らく都内の某美術館に所蔵されていました。
2011年に市場に出て移動し、17年ぶりの公開です。
展観履歴 :
2019 東京富士美術館「サムライ・ダンディズム」展
2020 国立能楽堂資料展示室「日本人と自然 能楽と日本美術」
2022 国立能楽堂資料展示室「秋の風 能楽と日本美術」
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2014年9月25日UP
2020年8月 1日更新
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