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  •  佐野 長寛 (さの ちょうかん) 1794〜1856

    金襴塗八角喰籠

    金襴塗八角食籠
    (きんらんぬりはっかくじきろう)

     佐野長寛作 

     製作年代 :
     江戸時代末期

     法量 :
    縦192mm×横192mm×高112mm

     鑑賞 :
    金襴(錦)を貼り付け、木地蝋漆で塗り込めた八角食籠です。 恩賜京都博物館(現在の京都国立博物館)で行われた遺作展に出品され、 出品作品を選抜した作品集『漆匠 長寛』に図版も掲載されている基準作品の一つです。 呉服商「金安」こと野口安左衛門の旧蔵品で、呉服商の注文に相応しい作品でもあります。

    金襴塗八角喰籠  意匠 :
    花唐草の金襴(錦)を貼り付けて模様を表しています。蒔絵筆を一切使わずに模様を表した異色の作品といえるでしょう。

     形状 :
    台が付いた、印籠蓋造、八角の食籠です。角部や稜部、置口に縁を取っています。

     技法 :
    ・木胎の組物で、角と陵線は錫粉溜地の蒔絵として枠取りしています。 その枠の内側に金襴(錦)を貼り付け、木地蝋漆で塗り込めて平滑に研ぎ出しています。 金襴の繊維は漆が染みて黒く沈み、金糸の模様部分が白檀塗のように浮かび上がっています。 このように金襴を塗り込めたものは、長野横笛など京都の漆工の作品にも稀に見られます。
    ・内側と立上りは黒漆塗です。

     外箱 :
    桐製掻合塗の外箱で、底は素地のままとし 右に「錦八角食篭」の墨書があり、 左には「漆匠/長寛造」との墨書と「長次」の 白文方形印が捺されています。

     伝来 :
    金襴塗八角喰籠 大正14年(1925)に恩賜京都博物館(現在の京都国立博物館)で行われた佐野長寛の遺作展に出品され、 出品作品の図版を抜粋して刊行された作品集『漆匠 長寛』(長寛追薦會 1925年)に 「三〇、溜小喰籠 金襴塗 野口安左衛門氏蔵」として本作の図版が掲載されています。
     またそれ以前の明治29年(1896)に京都美術協会が開催した「新古美術品展」にも出品され、『京都美術協会雑誌』48号の出品目録には、「錦八角食籠 長寛作 野口安左衛門君」と出品の記録があります。
     1925年以降、一度も確認されていませんでしたが、92年たった2017年に京都で出現しました。

     野口安左衛門 :
    野口家は享保18年(1734)、油小路四条上ルに呉服商「金安」を創業し、 両替商をも営んだ京都でも屈指の呉服商です。また京友禅の名店として現在まで知られます。
     『漆匠 長寛』図版掲載作品48点の内、6点を所蔵していたことから、 当時でも長寛の所蔵家として知られていたと考えられます。『漆匠 長寛』には他に下記の5点の図版があります。
    ・黒漆大棗 大納言卿君ヶ代
    ・埋木香合 千鳥
    ・片口 尾長鳥
    ・溜塗提重 古代紋
    ・莨盆 スカシ入

     また『京都美術協会雑誌』48号掲載の明治29年(1896)「新古美術品展」には、 野口安左衛門から下記の12件の出品が見られます。
    ・利休形溜塗家具 長寛作
    ・溜塗切箔菊模様吸物膳 長寛作
    ・印金畫吸物椀 長寛作
    ・時代正法寺摸造椀 長寛作
    ・蒔繪小重 長寛作
    ・歌繪小提重楓香盆 長寛作
    ・錦八角食籠 長寛作
    ・溜銀ヤスリ朱桐摸様引重 長寛作
    ・豊臣時代摸様平棗 長寛作
    ・描金宗二桐摸様中棗 長寛作
    ・蒔繪茶箱 長寛作
    ・黒漆花鳥丸銘畫手焙 長寛作 一對

    さらに『京都美術協会雑誌』71号掲載の明治31年(1898)「新古美術品展」には、 野口安左衛門から下記の12件の出品が見られます。
    ・利休形湯盆 長寛作 一個
    ・南蠻寫菓子盆 長寛作 一個
    ・洗朱刷毛目不俊齋好椿椀 長寛作 廿人前之内
    ・根來寫木皿 長寛作 
    ・利久形引盆 長寛作
    ・利久形盃臺 長寛作
    ・根來寫椿臺 長寛作
    ・黒染端反小吸物椀 長寛作
    ・蝋色佐具津箱 長寛作
    ・眞溜塗煙草盆 忠八郎作火入付 長寛作
    ・眞塗爐縁 長寛作
    ・眞塗高臺寺蒔繪爐縁 長寛作

    このように約30件も佐野長寛作品を所蔵していたことから、 長寛へ直接注文していたことが窺えます。

     展観履歴 :
    1896 京都市美術館「新古美術品展」
    1925 恩賜京都博物館「長寛70年祭遺作品陳列会」

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    絵高麗桜鯉蒔絵蓋物(えごうらいさくらにこいのまきえふたもの)

     佐野長寛作 

    佐野長寛作「絵高麗桜鯉蒔絵蓋物」  製作年代 : 江戸時代末期
    天保〜安政 (circ.1860)

     法量 :
    直径196mm×高128mm

     鑑賞 :
    幕末の奇人、名工として知られる佐野長寛の強烈な個性が表れた傑作です。 絵高麗と呼ばれる、高麗陶磁を蒔絵で模したもので、 底も陶器のように見せています。 蓋は網に桜蒔絵です。共箱には自ら讃を書き付けています。

     意匠 :
    身は絵高麗の陶磁器を意図したもので、 鉄絵・掻き落としの素朴な模様を写しています。 見込みは鯉に水草で中央には八卦文で、勾玉巴文を中心に四方に乾を表わす爻を描いています。 外側には蔓状の草の模様と三星と六星が散らされています。 蓋は内外共に、網に桜模様となっています。これは能「桜川」に取材しています。

     形状 :
    身は深い鉢の形で、高台は撥高台となり、高台の中は巴状に渦巻きに形作っています。 蓋は浅い織部形の盃のような形状としています。

     技法 :
    ・グレーの部分は炭粉と銀粉の混合粉を使った銀粉溜地で、模様を 研切蒔絵としています。鉄絵を表現した黒い 模様部分は炭粉に青金粉を蒔いています。 鯉は金粉溜地に鱗文を引っ掻いて表し、鯉のヒレは朱金としています。
    ・高台内は錆び漆で巴高台に形作り、弁柄を混ぜた褐色に仕上げています。
    ・蓋の地塗は潤塗で、網模様は黒漆で描き、桜の花弁は金の平蒔絵としています。

     類例 :
    長寛は同趣の作品を数点作ったようです。私が確認しているだけでも次の3点があり、少しずつ意匠や技法を変えています。
    1 林新助(道具商・楽庵)旧蔵品。現在オランダの個人コレクター所蔵。
    2 京都市京セラ美術館蔵。上野旭松庵旧蔵。「京都上野旭松庵氏所蔵品入札」(1917年 大阪美術倶楽部)、 『京漆器』(1983年 光琳社出版)、『近代日本の漆工芸』(1985年 京都書院)に所載。
    3 兵庫栗庵旧蔵。現所在不明。兵庫栗庵所蔵品入札目録(1940年 京都美術倶楽部)に所載

    外箱写真 1 の身は本作とは鯉の向きが逆で、 高台に「漆匠/長寛(花押)」の蒔絵銘があります。 蓋の表は黒塗に紅葉の黒蒔絵、見返しは朱漆刷毛目塗 に桜を金の平蒔絵としたもので 網模様はありません。 外箱は本品とよく似ていますが、字配りに若干の異同があり、署名に「長次」印が捺されています。
    2 身は本作とほぼ同じで、蓋の色が潤塗ではなく朱塗のものです。 外箱は底まで黒漆塗で、底に朱漆で 「さくらこいのえやう/ 繪高麗摸之蓋物/漆匠/長寛造(花押)」とあります。
    3 モノクロの売立目録の図版だけですが、身は本品と似た撥高台、蓋の塗色は不明ですが、網に桜蒔絵です。

    外箱底 箱書写真  外箱 :
    四方桟蓋造の桐製外箱で、底の箱書部分を除いて、黒漆塗にしています。 「□石地塗光輪蒔画/蓋溜塗網ニ櫻蒔画/食籠」と判読不能 の2枚の貼札があります。箱の底には次のような箱書があります。
















    ※現代語訳
    「いぬ」という言葉は「似て非なるもの」という意味があり、 犬桜も花に見えながら桜ではない。

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    2008年12月21日UP
    2022年 3月 8日更新